生活に余裕がない家計でも大学への進学の機会をくれる奨学金ですが、実際いくらまで借りるのが最適なのでしょうか?
他の記事では「借りすぎないようにしましょう」みたいに、単純な理想論しか書かれていなかったりします。この記事では、実際の学生生活や卒業後の暮らしをイメージしながら、奨学金をいくらまで借りるとベストなのか解説しています。奨学金の返済に悩む卒業生の相談を数多く受けてきた経験から、借りすぎのリスクや借り控えのデメリットなどを分かりやすく説明します。バランスの取れた奨学金の知識を得ていきましょう。
これから奨学金の利用を検討している学生の皆さんやご家庭の方々は、この記事を読むことで、さらに自信を持って奨学金と向き合えるはずです。ぜひ一緒に、未来を支える最適な奨学金プランを考えていきましょう。
記事のポイント
1. 必要なお金と自己資金から借入額を計算する
- 学費、生活費を予想してみる(国公立/私立、自宅/一人暮らしで大きく変わります)
- 家族からの支援、アルバイト収入などの自己資金はどれくらい用意できるか
2. 将来の返済能力をもとに決める方法もOK
- 新卒時の平均収入をベースに計算
- 生活環境(一人暮らし/実家暮らし)で返済の負担は大きく変わります
- 月々の返済額が収入の10%以内になるよう設定
借入額を決めるポイント
奨学金を申し込む際の基礎知識
奨学金を利用する際、まず知っておきたいのは、日本学生支援機構の奨学金には貸与型と給付型があり、条件に応じてどちらか、または両方を組み合わせて選択できるということです。ただし、これらの奨学金には貸与や給付を受けるための条件があり、家計の状況や本人の成績などが要件になっています。自分がどの種類の奨学金を利用できるのか、まずは確認しておきましょう。
貸与型奨学金を利用する場合、借入額をどのくらいにすればいいか悩むこともあるでしょう。実際、選択できる金額の幅が広いことが多いため、適切な額を決めるのは簡単ではありません。
まずは、借入額を決めるポイントをいくつか挙げてみましょう。
1. 進学先の学費(+生活費)
まず考えるべきは、大学の学費と生活にかかる費用です。
国公立大学と私立大学では学費が大きく異なりますし、自宅通学か一人暮らしかによっても必要な金額は変わってきます。例えば、私立大学で一人暮らしをする場合、年間200万円程度必要になることも珍しくありません。自分の状況に合わせて、4年間の総額を概算してみましょう。後で主な学費の平均額をご紹介します。
2. 家庭の経済状況
次に、学生本人とご家庭でどれくらい負担できるかを考えます。
教育資金の貯蓄や親からの仕送り、アルバイトする場合の収入などを含めて、自己資金をどれくらい用意できるでしょうか?
学費や生活費で必要な費用から自己資金を差し引いて、不足する分が奨学金の借入額の目安となります。
3. 将来の返済能力
また、将来の返済能力をもとに、奨学金の借入額を決める方法もあります。
卒業後の就職先や収入を正確に予測するのは難しいですが、新卒の平均初任給や住む地域(実家暮らしか、一人暮らしか)などを参考に、おおよその見当をつけましょう。例えば、月収20万円だとすると、家賃・生活費などを差し引いて、奨学金返済に充てられるのは多くても数万円程度になるかもしれません。
借入額を決める際には、これらのポイントを総合的に考えます。単純に「とりあえず借りられるだけ借りよう」という考えは危険です。
奨学金の平均借入額は206万円
奨学金をいくら借りるべきか悩んでいるとき、他の学生がどれくらい借りているのかが参考になります。
ここでは、日本学生支援機構の調査結果に基づいた実際の平均借入額を見ていきましょう。
以下の表は、居住形態別の平均借入額を国公立大学と私立大学で比較したものです。
居住形態 | 国公立大学 | 私立大学 |
---|---|---|
全体 | 約160万円 | 約206万円 |
実家暮らし | 約112万円 | 約184万円 |
一人暮らし | 約185万円 | 約246万円 |
引用:日本学生支援機構 令和4年度学生生活調査結果
※ これらの金額は、月額の奨学金収入を48か月(4年間)分として計算しています。
平均借入額をみていると、学校や暮らしによる違いが見えてきますね。
全体的に私立大学の方が国公立大学より借入額が多くなっています。これは主に学費の差が原因でしょう。また、一人暮らしの学生の借入額よりも実家暮らしが少なくなっています。これは生活費の違いが大きく影響しています。
ただし、これらの金額は様々な大学と生活形態の平均値です。鵜呑みにせず、ご自身の状況に合わせて考えることです。家庭からの支援の程度、進学先の学費、生活スタイルなどによって、必要な借入額は大きく変わってきます。また、これらの数字は月額の奨学金のみを考慮しており、入学時特別増額貸与奨学金などは含まれていません。実際の総借入額はこれより多くなる可能性があります。
大学の学費負担 国公立243万円、私立520万円
奨学金を考える上で、避けて通れないのが学費です。学費の負担が大きいほど、奨学金の借入額も増やす必要があるかもしれません。ここでは、具体的な数字を交えて見ていきましょう。
以下の表は、国公立大学と私立大学の学部別の4年間の学費総額を比較したものです。
学部系統 | 国公立大学 | 私立大学 |
---|---|---|
文科系学部 | 243万円 | 450万円 |
理科系学部 | 243万円 | 580万円 |
医歯系学部 | 243万円 | 1,800万円 |
全平均 | 243万円 | 520万円 |
引用:文部科学省「令和5年度 私立大学入学者に係る初年度学生納付金等調査結果」
※ 平均額を万円単位に変換したもので概算値です
※ 私立大学は(入学金 + (授業料 + その他) × 4年)で概算しています
※ 国公立は標準額で計算しており実際は大学により異なる場合があります
表を見ると、国公立大学と私立大学の学費の差が明確に分かりますね。
国公立大学では、学部に関わらず学費がほぼ一定です。これは入学金や授業料などが一律に定められているためです(一部の国公立大では学費総額に差異があることがあります)。
一方、私立大学では、学部によって学費に大きな差があります。国公立と比べると、差が小さい文科系学部でも、4年間で約200万円の開きがあります。医歯系学部になると、その差は1,500万円以上にもなります。
ここで必要な学費を見てきましたが、大学に通うのに必要なのはこの金額だけではなく、生活費が必要になってきます。概算ですが、一人暮らしをする場合、4年間で約400〜500万円の追加費用が必要になると考えられます。自己資金がまかなえる分を差し引いて、必要な奨学金の借入額を決めていきましょう。
最適な借入額はこのくらい
ここまでのおさらいとして、具体的な数字を追ってシミュレーションしてみましょう。
1. 年間の必要経費を計算
まず、1年間にかかる費用を計算しましょう。以下は私立大学の文系学部に進学し、一人暮らしをする場合の例です。
項目 | 金額(年間) |
---|---|
学費 | 112.5万円 |
家賃 | 72万円 |
食費 | 36万円 |
光熱費・通信費 | 24万円 |
教材費 | 36万円 |
交通費 | 12万円 |
その他生活費 | 24万円 |
合計 | 316.5万円 |
2. 自己資金をどれくらい用意できるか計算
次に、この必要経費のうち、どれくらいを自己資金で賄えるかを考えます。
項目 | 金額(年間) |
---|---|
家族からの支援 | 180万円 |
アルバイト収入 | 60万円 |
自己資金合計 | 240万円 |
必要借入額の計算:
項目 | 金額(年間) |
---|---|
必要経費 | 316.5万円 |
自己資金 | 240万円 |
必要借入額 | 76.5万円 |
3. 借入総額の確認
4年間の借入総額を計算してみましょう:
借入総額 = 年間借入額 × 借入期間
= 76.5万円 × 4年 = 306万円
以上から、奨学金として借り入れたり、給付でまかなうべきお金は約300万円と分かります。
奨学金の借入を減らせないか検討
ここで重要なのは、上記の例はあくまで一例であり、ご自身の状況によって借入額をさらに減らせることもあります。例えば以下のようなポイントも考えてみましょう。
- 居住形態(例えば、1〜2年生まで実家で暮らせないか)
- 給付型の奨学金(返済不要)を受けられないか
- 大学独自の奨学金や授業料減免制度を使えないか
もちろん、収入自体を増やすことも考えられますが、学業に支障をきたすほど無理な節約をしたり、必要以上にアルバイトに時間を割いたりすることは、本末転倒ですので避けるべきです。また、この後解説するように、使わなかった奨学金は貯めておいて、後から効率的に返済を進めることもできます。
最終的に借入額を決めるときに、必要最小限の借入に抑えることも大切ですが、大学生活を不自由のないものにするために、ゆとりのある計画を立てるようにしましょう。
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将来の返済能力もシミュレーションしてみよう
奨学金を借りる際、将来の返済について考えておくことも重要です。借入額を余分に増やして、必要以上に奨学金に頼り過ぎた生活を送ると、卒業後の返済が困難になることもあります。
ここでは、卒業後の生活状況を具体的に想定して、返済能力をシミュレーションしてみましょう。
1. 新卒時の平均的な収入の目安
まずは、大卒の新入社員の平均的な収入を見てみましょう。
項目 | 金額(月額) |
---|---|
平均月収(大卒・新卒) | 約23.73万円 |
手取り額(概算) | 約19万円 |
引用:厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」
※ 収入金額は業界や企業規模、入社年によって大きく異なります。
2. 生活環境による返済負担感の違い
次に、生活環境別に返済負担感の違いをシミュレーションしてみましょう。
ここでは、月々の奨学金返済額を15,000円と仮定します。また、収入は平均的な新卒の月収約23万円から、手取額を概算で19万円としています。
a) 都内で一人暮らしの場合:
項目 | 金額(月額) |
---|---|
手取り | 190,000円 |
家賃 | -70,000円 |
食費 | -30,000円 |
光熱費・通信費 | -20,000円 |
交通費 | -10,000円 |
奨学金返済 | -15,000円 |
残金 | 45,000円 |
b) 実家暮らしの場合:
項目 | 金額(月額) |
---|---|
手取り | 190,000円 |
食費・光熱費分担 | -30,000円 |
交通費 | -10,000円 |
奨学金返済 | -15,000円 |
残金 | 135,000円 |
このシミュレーションから、同じ15,000円の返済額でも、生活環境によって負担感が大きく異なることがわかります。一人暮らしの場合、返済後の残金は45,000円で、予想外の出費や貯金を考えると余裕があるとは言えません。一方、実家暮らしの場合は奨学金の返済後でも手元に10万円以上のお金が残ります。
また、返済額の目安は、月々の返済額が収入の10%以内に収まるよう設定する方法がおすすめです。10%なら、生活にもある程度の余裕が出てくることが多いためです。
3. 返済予定額はシミュレーターで計算できる
卒業後の毎月の返済額は日本学生支援機構の「奨学金貸与・返還シミュレーション」を使って試算することができます。
これは、いくつかの質問に回答することで、貸与総額や毎月返還していく金額、返還が完了となる時期等を試算することができます。このシミュレーションを使って、ご自身の将来の収入予測と照らし合わせながら、無理のない借入額を決めていきましょう。
奨学金を全部使う必要はない
奨学金を借りる際、多くの人は必要な金額を計算して借り入れますが、実は借りた奨学金を全額使う必要はありません。
そもそも奨学金の使途は自由
まず知っておきたいのは、奨学金の使い道は基本的に自由だということ。これは他の多くのローンとは大きく異なる特徴です。例えば、以下のようなローンには少なからず制限があります。
- 住宅ローン:家族が住む住宅の購入にしか使えません。
- 事業性ローン:事業の運営資金としてしか使えません。
これらと違い、奨学金は学費や生活費はもちろん、自己投資や緊急時の備えなど、借りる学生の判断で自由に使えるお金です。
余った奨学金の賢い使い方
本来必要な金額よりも多く借りてしまって、手元に余ってしまった・・・そんなときも、ほとんどの場合は心配いりません。使わなかった分は、そのまま取っておくことで、これが将来の自分にとって大きなメリットになります。
- 繰り上げ返済:奨学金の返済開始後、余った分を使って繰り上げ返済ができます。これにより、総返済額を減らせる可能性があります。
- ライフイベントへの備えとして: 新卒で就職し一人暮らしを始める際の初期費用、結婚、子育てにかかる費用にあてることもできます。
大切なのは、借りた金額イコール使う金額」と考えないこと。必要最小限の金額を使い、余った分は将来の自分への資産だと思って大切に扱いましょう。
奨学金をさらに賢く借りるコツ
奨学金を借りる際には、将来の自分に過度な負担をかけないよう、賢く借りることが大切です。ここでは、奨学金をさらに上手に活用するためのコツをいくつかご紹介します。
追加の奨学金や給付型支援の活用
日本学生支援機構の奨学金だけでなく、以下のような支援制度も探してみましょう。
-
- 大学独自や地方自治体の奨学金制度
- 民間団体(企業)の奨学金
- 授業料減免・免除の制度
これらを組み合わせることで、借入額を抑えられる可能性があります。
優秀な成績を修め返済免除を目指す
日本学生支援機構の第一種奨学金(無利子)には、特に優れた業績を挙げた学生に対する返還免除制度があります。学業に励み、この制度を目指すのも一つの方法です。
奨学金をいくらまで借りるのがベストかは学費や将来の返済能力で決める
奨学金の借入額を決める際は、必要な支出と自己資金を正確に把握し、その差額を借入の目安とすることが基本です。将来の返済能力を考慮し、月々の返済額が収入の10%以内に収まるよう設定するようにしましょう。