妊娠や出産はとても喜ばしいことですが、同時にお金のことで頭を悩ます方も多いのではないでしょうか?出産・育児の際には様々な手当金、給付金がもらえますが、もらうには一定の条件をクリアする必要があり、その制度は少し複雑です。
この記事ではこれからママになる方に向けて、産休を取る前に退職することのメリットとデメリットについて、主にお金の制度を中心に分かりやすく解説しています。
産休をもらう前に退職して後から損した気分にならないよう、「もらえるお金」と「もらえないお金」の情報を事前に知っておきましょう。
産休・育休前の退職でも、もらえるお金、もらえないお金
産休・育休前に退職しても、もらえるお金、もらえないお金について以下にまとめてみました。
もらえるお金
まず「もらえるお金」ですが、一般的に、出産する前に退職すると出産手当がもらえないと思われがちです。しかし、実は一定の条件を満たすと、退職後でも出産手当金を受け取ることが可能です。
- 出産手当金:出産手当金は、出産予定日以前42日から出産後56日の間で産休等で休んでいる期間に対して受け取れる手当です。退職したとしても、産休中に在職していた期間に対しては支給されます。健康保険組合等に申請が必要です。
- 出産育児一時金:健康保険の被保険者が出産した際に支給される一時金です。支給額は50万円です。出産育児一時金は公的医療保険の被保険者および被扶養者であれば受給できるため、退職したとしても受け取れるお金です。産院等で出産にかかる費用にこれを充てられます。「直接支払制度」を利用すれば、協会けんぽから出産育児一時金が医療機関に直接支払われるため、多額な出産費用を事前に用意しなくても済むことがほとんどです。
- 失業手当:雇用保険に加入していて、退職し、その後新たな職につけなかった場合、一定の条件を満たせば受給できる手当です。産休・育休を取得する前に退職し、出産後に再就職をする予定の方は失業手当が受け取れる場合があります。
もらえないお金
一方、「もらえないお金」についてはどうでしょうか?
- 育児休業給付金:この給付金は育児休業を取得し、一定の要件を満たす場合にのみ支給されます。この給付金は就業ができず、収入が減少してしまったときでも、子育てを続けるための手当です。そのため、産休前に退職した場合には受け取ることができません。
なお、産休前に退職して「損をした」かどうかは、価値観や家族の状況によって大きく変わります。
退職してしまって給付金等がもらえなくなっても、その分家族と一緒に過ごす時間を長く取れたり、育児・家事の自由度が高くなったりするメリットがあります。退職は、必ずしも金銭的なデメリットだけを見て決めない方がよいでしょう。そのことについては記事の後半で詳しく解説しています。
出産手当金は退職してももらえる可能性あり
出産手当金は産休(産前産後休暇)中にもらえる手当です。健康保険の制度のひとつで、出産を控えて働けない期間と、出産後の回復期間を支えるため、収入の減少をカバーする目的があります。
出産手当金は、出産日(出産が予定日より後になった場合は出産予定日)以前の42日間(多胎妊娠の場合は98日間)から、出産日の翌日以降56日間まで支給されます。
支給される金額は、概算で給与の2/3程度の月額となります。より正確には、「標準報酬月額」を30で割って得た額の2/3相当額です。
1日あたりの支給額
支給開始日以前12カ月間の標準報酬月額の平均額÷30日×2/3
例えば、給与月額が20万円だとしましょう。これを30で割って2/3にすると、1日あたりの出産手当は約4,444円となります。出産手当が支給される期間(出産予定日前後で最大で98日)を掛けると、総額で約43万円ほどの出産手当金が支給される計算となります。これはあくまで概算の計算例なので、同じく給与月額が20万円前後の方でも、給与の支給額によって変動する場合があります。
こちらのサイトで出産手当金の簡易計算ができるので、一度試算してみましょう。無料でかんたんに試算できます。
出産手当金の受給条件
出産手当金は健康保険の被保険者(正社員や一定の条件を満たすパートなど)のみが受給資格があります。扶養に入っている方や任意継続被保険者、国民健康保険の被保険者は受け取れません。
また、出産手当金は、出産で働けなかった分の収入減少をカバーするための補償制度です。そのため、勤務していないことと、無給であることが必要です。つまり、産休(産前・産後休暇)をもらうことで、初めて受給対象となります。有給休暇は対象となりません。
退職した場合は?
出産日前42日より前に退職した場合は、出産手当金を受給することは一切できません。しかし、出産予定日以前の42日間に産休に入り、その期間中に退職した場合は、退職日までの期間について出産手当金を受給できます。
さらに、以下の2つの要件を満たす場合、退職しても出産日後56日までは出産手当金を受給できます。
- 退職日に勤務していない(出産手当金を受け取る条件を満たしている)。
- 転職していても、退職日まで健康保険に継続して1年以上加入している(任意継続、国民健康保険、公務員などの共済組合の被保険者、被扶養者となっている期間は含まない)。
出典:全国健康保険協会「Q7:会社を退職することになりましたが、退職後の期間についても出産手当金を申請できますか?」
出産手当金の申請方法
出産手当金の申請には、「出産手当金支給申請書」の提出が必要ですが、本人が手続きしても会社が手続きしても問題ありません。
退職後に手続きを行う場合は、基本的に次の4ステップとなります。
1. 必要書類を健康保険組合、協会けんぽからダウンロード
それぞれの健康保険組合、あるいは協会けんぽのサイトから、出産手当金の申請書をダウンロードできます。
2. 勤務先に出産手当金支給申請書に記入してもらう
退職前の勤務先に連絡し、申請書類の「事業主記入欄」に記入してもらいます。
ここには、申請期間の勤務状況、どのくらい給料を支払ったかなどの情報が必要です。なお、勤務先に記入をお願いするタイミングは、手当金の算定期間の給料が確定してからとなります。
3. 病院で出産手当金支給申請書に記入してもらう
出産後、申請書を病院に提出し、「医師・助産師による証明欄」欄を記入してもらいます。
記入してもらうにあたって、一部の病院では文書料が発生する場合があります。
4. 健康保険組合への提出
被保険者記入欄に記載する健康保険被保険者証の記号・番号は、在職していたときのものを記入します。
被保険者記入欄にもれなく記入した後、申請書類を加入していた健康保険組合や協会けんぽに送付します。
申請時期
出産手当金は未来日の分を事前に申請することはできません。そのため、例えば産前・産後分をまとめて申請する場合は、出産後56日が経過し、勤務先の給料の締め日が過ぎたタイミングで申請します。
出産手当金は申請後、約2週間~1ヶ月程度で指定した口座に振り込まれますが、組合や会社の手続きタイミングにより振込時期が異なる場合があります。
退職してから出産手当金を受給したい場合の注意点
退職後に出産手当金を受給する際には、以下のポイントに注意しましょう。
申請期限の確認
出産手当金の申請は、出産手当金の受給が発生する日の翌日から2年以内が期限です。出産手当金を受けとる権利は、産休取得中の対象期間の日ごとに発生するため、期限前に満額受け取るには、出産日前42日から数えて2年後が申請期限となります。
この期間を過ぎると、出産手当金の受取額が少なくなるため、早めに手続きしましょう。
扶養の確認
出産手当金を受けている間は、その分収入が高くなるため、退職後でも配偶者などの扶養から外れてしまう場合があります。
出産手当金は、出産で働けない期間の収入減少を補償する制度なので、受け取った出産手当金は収入の一部とみなされる可能性があります。扶養の適用に関しては複雑なルールがありますが、基本的には対象者の年間収入が130万円未満である場合に、被保険者(配偶者等)の被扶養者として認定されます。そのため、出産手当金とその他の収入をあわせて、年間130万円を超える場合は扶養から外れてしまう場合があります。
出典:協会けんぽ「被扶養者とは?」
育児休業給付金はどう?
育児休業給付は、従業員が育児のために職場を離れる期間中に、その収入減少を補填する目的で設けられた国の制度です。
この給付金は、健康保険法に基づき、子育てのために職場から一時的に離れる必要がある従業員に対して支給されます。企業や健康保険組合が給与を補償するものではなく、復職を前提とした制度です。そのため、産休前に退職すると一切受給できません。
給付金の計算方法
育児休業給付金の計算方法は、休業開始から180日目まではおおよそ給与の67%、それ以降は50%となっています。
より正確には、休業開始時賃金日額(育休に入った日から以前6ヶ月間に支給された給与の合計額を180で除して得た額)を支給日数(原則30日間)にかけ、それに67%(180日以降は50%)を掛けて求められます。計算には、賞与や特別支給の手当などは含めません。
支給額=休業開始時賃金日額×支給日数×67%(育児休業開始から181日目以降は50%)
なお、支給上限額などが定められているため、正確な計算にあたっては下記厚生労働省のサイトを参照してください。
給付条件
育児休業給付金の受給資格は以下のとおりです。条件を満たしていれば、正社員だけでなく、パートや派遣社員でも取得可能です。
- 育児休業を取得していること:給付金を受け取るためには、育児休業を取得している必要があります。
- 雇用保険に加入している期間が1年以上ある:過去2年間のうち、就業日数が11日以上ある月が12か月以上ある場合に受給対象となります。
- 子が1歳未満である:給付金の受給期間は、子が1歳になるまでと規定されています。したがって、子が1歳を超えると給付金は受けられなくなります。ただし、「パパ・ママ育休プラス」制度を利用して育児休業を取得する場合は1歳2か月、保育所が決まらない場合は1歳6か月または2歳まで取得が可能です。
このように、雇用保険に加入しているからといって、必ずしも給付金がもらえるわけではありませんので注意しましょう。
産休もらう前の退職で損するかはママや家族次第!
さて、ここまで産休をもらう前に退職してももらえるお金、もらえないお金について解説してきました。
しかし、産休前に退職することで損になるかどうかは、その人・家族の状況や価値観によるところが大きいです。以下に、産休前の退職のメリットとデメリットをまとめてみますので、参考にしてみてくださいね。
退職のメリット
子どもと過ごす時間が増える:退職すると、子どもと一緒にいられる時間が増えます。出産した後、子育ての初期段階では、子どもと接する時間の長さはとても大切です。親子の絆を深めるのに退職を選択するメリットは大きいでしょう。
- 教育の選択肢が広がる:退職すると、幼稚園など、学校の選択肢が広がるかもしれません。通勤時間や勤務時間に縛られず、子どもが通える幼児教育や習い事を選べるため、子どもにとって最適な教育環境に近づけます。
- 新しい仕事にチャレンジ:育休明けに新しい仕事にチャレンジしたい人にとって、産休・育休に合わせて一旦退職することで、転職活動などがやりやすくなるでしょう。
- 失業手当が受給できる場合も:育休明けに転職を考えている場合、退職することで失業保険を受給できる可能性があります。
退職のデメリット
再就職が難しい場合も:産休・育休明けにすぐには仕事に就けない可能性があります。求人の状況や経験・スキルにもよりますが、小さなお子さんがいる方は転職で敬遠される恐れがあります。
- 収入に不安も:上述のとおり、退職してしまうと育児休業給付金が受け取れないため、収入面で不安があるかもしれません。
- 想定外の出費:退職すると育休明けに固定の収入がなくなるため、子育てで生じる想定外の出費に対応するのが難しくなるかもしれません。
これらを踏まえ、自身や家族のライフスタイル、価値観に基づいて、退職するかどうかを決めることが重要です。
まとめ
産休や育休に関する制度には様々なものがあり、出産手当金、育児休業給付金は、産休や育休を取得する際の経済的な支えとなります。しかし、産休を取る前に退職するかどうかは、ライフスタイルや経済状況によって損得が異なります。子供と過ごす時間が増える、新たなキャリアにチャレンジできるなどのメリットがある一方で、育児休業給付金が受けられないため収入面の不安などのデメリットもあります。ご自身の価値観や家庭の状況を考慮しながら、退職するかどうか考えてみましょう。