子どもの教育への出費は大切な子どもたちの輝かしい未来への投資でもあります。そのための資金計画を考える上で、特に祖父母からの金銭的なサポートを受けられるご家庭では、税制上の知識が大きな違いを生むこともあります。
そこでこの記事では、教育資金の一括贈与(教育資金贈与)について、そのメリットとデメリットを解説しています。教育資金の一括贈与をする上での税制上の特例があり、特に祖父母から孫へと教育資金を贈る際に非常に役立ちます。
この制度についてしっかり学ぶことで納税を安く抑えることができ、子どもの教育資金を多く残すことにもつながります。家族全体で賢く、より良い教育投資を行うための知識を深めていきましょう。
教育資金贈与とは
一般的に教育資金贈与と呼ばれる制度は、平成25年度の税制改正で制定された「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」のことを指します。この「教育資金の一括贈与の特例」制度を利用すると、親や祖父母が子や孫に教育のための資金を贈る際、1人につき1,500万円までにかかる贈与税が非課税になります。
通常の贈与をする場合、暦年(1年間のこと)で110万円を超えると贈与税が発生します。しかし、この「教育資金の一括贈与の特例」を活用すれば、教育資金に用途を限って、一括して1,500万円まで贈与契約を結ぶことができます。つまり、ある程度の余裕資産があり、子どもや孫の教育資金を手厚く支えたい親や祖父母にとって、贈与税を抑えながら子どもに多額の教育資金を渡せる適した制度と言えるでしょう。
この特例を利用するには、金融機関に専用の信託口座を解説する必要があるなど、手続きがやや煩雑です。仕組みと手続き方法についてはこの後見ていきますが、手間はかかる分、大きな節税が期待できる制度なので、積極的に利用を検討するのをおすすめします。
教育資金贈与の対象となる支出
「教育資金の一括贈与の特例」で対象となる資金の使い道は、もちろん教育に関連するものに限られます。では具体的には、どんな支出が対象になるのでしょうか。
特例の対象となる支出は、教育資金贈与が適用されるのは、特定の教育に関する費用に限られます。それらは大きく二つのカテゴリーに分けることができます。
学校等に対して直接支払われる金銭
最も一般的なものは、教育機関へ直接支払われる学費です。幼稚園、小学校、中学校、高校、大学などの入学金や授業料、教材費、施設設備費などがこれに含まれます。この他にも、寮費や給食費、修学旅行費用など、学校教育に必要とみなされる費用が対象となります。
学校等以外の者に対して直接支払われる金銭
学校以外に対して直接支払われる教育関連費用も教育資金贈与の対象となります。これには、学習塾や予備校、英会話学校、習い事(水泳教室等)などの授業料も含まれます。また、専門的な技術や知識を身につけるための資格取得のための学費や、留学費用も教育費として認められるケースが多いでしょう。他にも通学定期代も対象に含まれます。
ただし、これらの支出が教育資金贈与の特例の対象として認められるには、それが「教育」のためのものであることを証明する必要があります。具体的に、学校や教育施設からの領収書など、費用の内容と金額、支払い先を証明する書類を用意しておく必要があります。
このように、「教育資金の一括贈与の特例」制度を利用する際には、どのような支出が対象となるのかを正確に理解しておくことが重要です。
教育資金贈与の仕組みと手続
それでは、具体的にどのような流れで贈与の手続きを進めればよいのでしょうか。
- まず最初に、贈与者(ここでは例として祖父母)と受贈者(ここでは孫)の間で、贈与契約書を交わします。
- 次に、金融機関において受贈者の名義で「教育資金口座」を開設します。教育資金贈与非課税口、教育資金非課税専用預金などの名称で呼ばれている銀行も多いです。この口座に、贈与される教育資金が入金されます。
- 口座を開設したら、金融機関に「教育資金非課税申告書」を提出します。この申告書は金融機関を通じて税務署に提出されます。贈与者、受贈者の方で税務署への届け出は必要ありません。
- 贈与者は、教育資金口座へ資金を入金します。
- 学校等へ教育資金を支払うときは、孫が授業料を支払い、領収書を受け取ります。
- 受け取った領収書を金融機関へ提出し、教育資金口座からお金を引き出します。領収書は支払いの度(お金を引き出すたび)に必要となるので、全てしっかりと保存しておきます。
出典:国税庁「祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし」より
以上が、教育資金贈与の基本的な流れとなります。手間はかかりますが、これらの手続きをしっかりと踏むことで、大切な教育資金を守ることができます。
教育資金贈与信託のメリット
それでは、教育資金贈与のメリットについて具体的に見ていきましょう。
贈与税がかからない(一部例外あり)
最も大きなメリットは、(一部例外を除き)祖父母や親世代から教育資金を一括で贈与しても、贈与税がかからない点です。教育資金贈与の特例を利用すると、1人につき最大1500万円までの贈与が非課税となります。ただし、例えば、受贈者(子ども)が30歳になったときに贈与額を使い切っていない場合などには、口座の残高金額に贈与税がかかることもあります。それでも、子どもや孫への支援を、税金を抑えながら行うことが可能になるのは大きなメリットでしょう。
教育のための資金確保
親や祖父母が教育資金を贈与することで、その資金は子どもや孫の教育のためだけに使われます。一度教育資金贈与口座に入金されたお金は、教育以外の目的には使用できないためです。そのため、子どもの成長と輝かしい未来のための金をしっかり確保でき、安心することができます。
子どもへの自立支援
贈与されたお金は教育のために使われるので、子どもたちは自分の成長に対して積極的に投資する機会を得ることができます。こうすることで、子どもたちは余計な不安を抱えることなく学業に集中し、自分自身の将来の目標に向かって全力を注ぐことが可能となります。
教育資金贈与信託のデメリット
教育資金贈与には多くのメリットがありますが、反対にデメリットも存在します。それらについてもしっかり理解した上で、制度を利用するかどうか決めることをおすすめします。
煩雑な手続きと理解が必要
教育資金の贈与が非課税となるには、一定の手続きが必要となります。贈与契約書の作成や金融機関への教育資金非課税申告書の提出など、手続きが少々煩雑です。また、教育資金贈与の制度自体も若干複雑なため、初めて制度を学ぶ人によってはこれらの理解が最初のハードルとなるでしょう。
贈与金の使途が限られる
教育資金贈与の対象となる支出は、教育に関連するものに限られます。これは、一見メリットのように思えますが、もしも家計が切迫するような事態になった際、教育以外の何かにお金を使いたいという場合でも、非課税専用口座の資金を使用することはできません。その点では、贈与された教育資金の使徒が制限されるという観点はデメリットとも言えます。
贈与の撤回が困難
この制度を利用して一度贈与され専用口座に入金されたお金は基本的に元に戻すことはできません。もし、後で贈与者(親や祖父母など)がお金を必要とする状況が生じた場合でも、贈与したお金は戻ってきません。
相続税対策としての教育資金贈与
最後に、教育資金の贈与の特例が相続税対策としてどのように活用できるのかについて説明します。
相続税とは、亡くなられた親などから、お金や土地などの財産を受け継いだ(相続した)場合に、その受け取った財産にかかる税金のことです(出典:財務省)。大きな資産を受け継ぐと、それに伴う相続税も大きな額になります。しかし、この教育資金贈与の制度を利用すれば、親や祖父母が子や孫に教育のための資産を移す際の税金を大きく減らすことが可能になります。
教育資金贈与の非課税枠は、暦年課税という通常の贈与の非課税枠(110万円)とは別に設けられています。つまり、この非課税枠1,500万円の枠外として、年間110万円までであれば贈与を行ってもその分の贈与税はかかりません。
つまり、子どもや孫の教育のために大きな金額を贈与することで、その資金が相続税の課税対象から除外されるわけです。これは、大きな資産を持つ親や祖父母にとっては、とても有効な相続税対策となります。相続税対策として教育資金贈与を利用する際には、そのメリットとデメリットを十分に理解した上で、自身の家庭状況や将来設計に合わせて慎重に計画することが重要です。
まとめ
今回は教育資金贈与のメリット・デメリットや相続税対策としての活用方法について詳しく解説しました。この制度を活用することでお子様やお孫さんの教育資金を確保しつつ、大きな節税効果を得ることが可能になるでしょう。
一方で、制度の仕組みと手続きが煩雑であるなど、デメリットも大きいのが事実です。そのため、実際に大きな額を贈与する前に、しっかりと仕組みを理解し、自身の資産状況や家族のライフスタイルに合わせた対応を見つけることが重要です。
お子様やお孫さんの明るい未来のために、そしてあなた自身の資産管理のために、教育資金贈与の活用をご検討ください。