出産は人生の最も幸せな瞬間の一つですが、経済的な不安もつきものです。ネットやSNSには出産や育児で必要なお金の情報はたくさん出ていますが、自分たち夫婦に合ってるか分からなかったり、不正確な情報があることも多いです。
そこで今回は、ファイナンシャルプランナーであり、2023年に実際に妊娠・出産を経験した筆者が、実際にかかるお金を夫婦間で分担する方法や、負担を下げる方法について、できるだけ分かりやすく実用的な解説をまとめました。
出産と育児は精神的にも経済的にも大変な時期です。しかし、しっかり準備をしておけば誰でも乗り越えられます。
この記事を参考に、金銭面での心配を最小限に、お金のストレスをできるだけ小さくして、少しでも育児に専念できることを祈っています。
記事のポイント
- 妊娠・出産にかかるお金を夫婦のどちらかが全額負担するとトラブルになることが多い
- 夫婦に合う費用負担の方法はさまざま!(収入比率で分担、内容ごとに分ける、etc.・・・)
- 妊娠・出産の費用には事前に備える(貯蓄、支出の見直し、分担方法を決めておく)ことが大切
- 公的な助成制度を活用すると負担をかなり軽くできる
妊娠・出産にかかる費用はこのくらい!
そもそも、妊娠・出産の前後にかかるお金はどれくらいでしょうか?
分娩や入院にかかる自己負担額は平均して約45万円(東京都では約55万円)と言われていますが、妊娠・出産とその後の育児にかかる費用はこれだけではありません。以下では、子育て期間に入るまでにかかる出費について解説します。
引用元
厚生労働省:出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果
妊娠中の費用
妊娠中は定期的な検診が必須で、診察費、検査費、薬代などのコストがかかります。ただし、定期的な検診については、市区町村から配布される母子手帳と一緒に配布されている補助券を利用すれば、無料で受けられる区市町村もあります。例えば、東京都の区市町村なら、最大14回の検診までは公費負担され、自己負担はありません。
とはいえ、このように助成があるのは妊婦さんが通常受ける定期的な検診に対してのみ。つわりがひどい場合や基礎疾患があるお母さんなどはさらに通院する必要がありますが、その場合は一部を自己負担することがあります。
その他にも、妊娠中はマタニティウェア、栄養補助食品やサプリメントなどのマタニティ用品の購入費用も必要になります。また、忘れがちですが、検診の通院にかかる交通費、もし里帰り出産するなら実家へ移動する際の交通費なども用意しなければなりません。
妊娠中にかかる諸費用は個人差がありますが、目安として3万円から10万円前後は覚悟しておくとよいでしょう。
出産時・入院にかかる費用
出産時の費用は、医療機関の種類や出産方法によって大きく変動します。
一般に、助産院や総合病院に比べ、個人病院の方が出産費用は高額になる傾向にあります。また、自然分娩か帝王切開か、個室かどうか、追加の検査を実施するかなどによって費用は違ってきます。
しかし、出産すれば出産育児一時金を受給できるため、出産入院費用の大部分はこれでカバーできます。出産育児一時金については記事の後半で解説しています。
入院費用には食事代や新生児ケア費用も含まれていますが、入院時の持ち物として、パジャマや授乳クッション、産褥ショーツ、赤ちゃんのおむつ、退院時のおくるみ等などの購入費も別途あります。
まとめると、地域や病院、個人によって変わりますが、目安として総額5万円から10万円前後はかかることが多いです。
出産後に必要な費用
出産後は、以下のような費用が必要になります。
【初期費用】
- ベビー洋服一式
- ベビーベッド(必要あれば)
- ベビーカー、抱っこひも(必要あれば)
- ベビーバス
- 哺乳瓶、搾乳機などの授乳用品
- など育児用品一式で10万円〜15万円程度
【継続的な支出】
- おむつ
- おしりふき
- ミルク
- 母乳パッドなどの消耗品 毎月1万円〜3万円程度
加えて、出産後は、共働き世帯だと保育園やベビーシッターなど、育児サポートに関する費用も考えておく必要があります。
初期投資は控えめに見積もっても10万円以上は必要で、毎月の支出も1万円以上は避けて通れません。そして子育てでは予期せぬ出費も多いため、余裕を持った計画を立てておきましょう。
妊娠・出産中にかかる費用、誰が負担する?起こりがちなトラブル
赤ちゃんを授かるのは本当に幸せなことですが、上で見てきたように、出産や育児には出費がつきものです。そこで重要になってくるのが、夫婦でこの費用をどう分担するか?ということです。
費用分担については、夫婦の間で意見が割れているケースも多いです。伝統的な家庭なら、パパが外で働き、ママが家事と育児をして、出産費用はパパが払う、という家庭が一般的でした。
ですが最近は、共働きでお母さんも働いている家庭が圧倒的に多く、昔ほど単純ではなくなっています。家庭のあり方が多様化して、パパの方が収入の多い家庭もあれば、ママ1人が稼ぎ手だったりする家庭もあります。
費用を一方のパートナーだけが負担している家庭
このようなとき、どちらか一方が出産費用を全部払うと、その人にしわ寄せが来て大変なストレスになりかねません。将来のお金の心配や、出産後の生活への不安から、この妊娠と出産という時期が思い出に残る幸せな出来事、とは思えなくなってしまうかもしれません。
金銭的な理由で、夫婦仲にもヒビが入りがち。「全部私が払っているのに、協力が足りない」と不満をもつかもしれません。そうすると夫婦の絆にもすれ違いが生じてしまう恐れがあります。
妊娠・出産のお金に上手に備える3つのポイント
事前に貯蓄する大切さ
妊娠や出産といった人生の大きな節目を控えている人にとって、お金の備えは重要な課題の一つ。すでに解説したように、妊娠・出産期には思わぬ出費が発生することも多く、事前に十分な準備をしておかないと家計が困難になってしまうかもしれません。
そこでおすすめなのが、計画的な貯蓄です。
毎月の収支を見直して、いくらか余裕を持たせて少しずつでも貯金を続けていけば、誰でも着実に資金を準備することができます。前もってある程度の蓄えがあれば、赤ちゃんが生まれた時の経済的な心配は大きく軽減されます。お金の心配は、思っている以上に大きなストレスとなるもの。経済的に余裕があれば、精神的にも落ち着いて育児に専念できます。
子どもを授かる予定の方は、できれば妊娠する前の早い段階から着実に貯金を始めましょう。
支出の見直し
出産に向けて経済的な準備をする上で、日々の家計を見直すことは重要なポイントになります。
毎月の生活費を削減するには、まず無駄な出費がどこにあるのかを把握する必要があります。そこで役立つのが家計簿です。収支をきちんと記録することで、お金の使い道が一目瞭然になります。
「この支出は本当に必要だっただろうか?」と自問自答を繰り返しながら、必要不可欠な出費とそうでないものを見極めていきます。例えば、外食の回数を減らしたり、コンビニでの無駄な衝動買いを控えたりと、小さな工夫から始めるのがおすすめです。生活費の内訳を定期的にチェックし無駄をなくすことで、少しずつですが貯蓄に回せるお金が増えていきます。家計簿をつけるのは貯金を殖やすのに必須といえるでしょう。
家計簿はスマホのアプリで意外と簡単に付けられます。人気なのはマネーフォワードやZaimなどで、家計簿を付けるだけなら無料で使えるので試しに使ってみるのもおすすめ。
子育て世代の方は、出費の8割近くが家族関係費になるともいわれています。収支の状況を常にウオッチし、計画的な貯蓄を心がけましょう。
夫婦での負担分担の具体的な方法
妊娠・出産時期にかかる費用の分担にはさまざまな方法があります。ここでは、実際によく使われていて、うまくいっている分担方法をご紹介します。
- 収入に応じた比率で分担
- 固定の割合(例えば半分ずつ)で分担
- 別々の費用項目を支払う担当制
- 共同貯金に資金を集める方法
収入比率に応じた分担
夫婦の収入比に応じて費用分担の割合を決める方法です。例えば夫婦の収入比が2:1なら、出産費用を2:1の割合で負担することになります。収入に応じた公平な負担ができるメリットがあります。
固定の割合で分担
出産費用を夫婦で50:50などの固定割合で折半する方法です。収入は関係なく均等に費用を分担するため、シンプルで分かりやすいのが特徴です。
別々の費用項目を担当
夫婦でお互いが異なる出費項目を分担する方式です。例えばパパが医療費や耐久品費、ママが消耗品の育児用品費といった具合に、項目ごとに役割分担します。
【例】
- パパは出産入院費用(50万円)を全額負担
- ママは育児用品代(20万円)、ミルク代や おむつ代(毎月2万円)を負担
出費のタイミングや金額が異なるものを、夫婦でばらばらに分担します。個々の事情に合わせて、柔軟に役割分担ができるメリットがあります。
共同口座での管理
出産費用専用の共同の銀行口座をつくり、夫婦で一定額を積み立てていく方法です。
共働き世帯に特におすすめの方法です。毎月の入金額と出金額、現在の貯蓄額がママ・パパの間で見える化されるので、不公平感も感じにくくなります。また、費用の管理を共同で行うため、協力してお金を管理していることを意識しやすくなるというメリットも。
【例】
- 夫婦共同で1年かけて同じ口座に50万円を貯金
- 出産入院費用50万円をこの口座から支払う
共通の口座を作ると、クレジットカードでの決済も簡単になります。例えば、夫婦のどちらか一方のクレジットカードの家族カードを作って、家族に関係する費用はそのカードを使って決済します。引き落としを共通口座からに設定すれば、家族関連費をどのくらい使ったか分かりやすいですし、個人的な他の出費とも区別されるので管理が楽です。
家族カードが作れるカード会社にはイオンカードや三井住友カードなどがありますが、多くの大手のカード会社で対応しています。
コミュニケーションの重要性
妊娠・出産費用の夫婦での分担方法については、何より「対話」が重要なカギを握ります。
カップルによってはお金の話題は避けがちかもしれませんが、早いうちから夫婦で率直に意見を交わし合うことが大切。そうすることで、互いの考えや相手への期待値を共有し、納得できる形を見出せるはずです。
対話の際は、以下の点に気をつけましょう。
- 相手の価値観や意見を尊重する聞く力と寛容さ(一番大切!)
- 自分の希望を一方的に押し付けない
- 互いに譲り合う柔軟な姿勢
経済的な負担分担はもちろん、出産後の育児の在り方や役割分担など、精神的な面でも夫婦間での率直な意見交換が不可欠となります。事前にお金の使い方について具体的なビジョンを共有し合うことで、子どもが生まれた後の新生活もより円滑になっていきます。
夫婦は出産を通じて新たな関係を築いていきます。価値観のギャップを恐れず、寄り添い合えるコミュニケーションを大切にすれば、出産後にすれ違う夫婦ではなく、素敵な家庭を築いていけるはずです。お互いを思いやり、尊重し合う姿勢を忘れずに。
支援を活用して負担を減らそう
制度名 | 対象となる人 | 支給期間 | 支給金額 | 申請先 |
---|---|---|---|---|
出産育児一時金 | 出産をする女性(保険加入者またはその被扶養者) | 出産時 | 最大50万円 | 加入している健康保険組合 |
育児休業給付金 | 育児休業を取得する労働者 | 子が1歳になるまで(延長可能) | 給与の50%〜67% | 勤務先、またはハローワーク |
児童手当 | 15歳未満の子を持つ保護者 | 子が15歳になるまで毎月 | 月額1万円~1万5千円 | 市町村役所 |
出産育児一時金
出産による経済的負担を軽減するため、国は出産育児一時金という支援制度を設けています。この一時金は、令和5年4月1日以降の出産では1児につき最大50万円が支給されます。
「直接支払制度」を利用すると、加入している公的医療保険から一時金が出産した医療機関に直接支払われます。そのため、出産・入院費用を立て替える必要もありません。もし一時金の金額を超える費用がかかったときは、その差額分だけを医療機関に支払います。申請方法も簡単で、直接支払制度を利用する場合は、医療機関からもらう書類にサインをするだけ。
育児休業給付金
出産後、働くママ・パパが一定期間育児に専念するために休職する場合、「育児休業給付金」の制度が利用できます。これは、育児休業中の生活費の手当てとして、休業前の給与の約50~67%が給付される制度です。
育児休業給付金を受給するには、育児休業を取得する前に、勤務先を通じて雇用保険などの社会保険に加入している必要があります。加入要件を満たしていれば、男女を問わず制度を利用できます。
給付金の支給期間は原則として、子供が1歳の誕生日を迎えるまでとなっています。しかし、一定の条件を満たせば、最長で子供が1歳6ヶ月になるまで支給期間を延長することができます。
育児に伴う収入減は、新たな家計負担になりがちです。そんな中、この給付金があれば、お母さんが安心して育児に専念できます。雇用と収入の足場を失うことなく、子育てと仕事の両立が可能になるのが大きなメリットです。
児童手当
子育て世帯の経済的な負担を少しでも軽くするため、市町村から「児童手当」が支給される制度があります。
この手当は、15歳未満のお子さんがいる保護者を対象に支給されます。支給額は、対象となるお子さんの年齢や、世帯の年収によって異なります。一般的な目安としては、月額で1万円から1万5千円程度が支給されます。
例えば、3歳未満の子供がいる世帯では月額1万5,000円が支給されます。3歳から小学生までは1万円、中学生では1万円が支給される水準となっています。
児童手当を受給するための申請手続きは、お住まいの市区町村の役場で行います。簡単な申請書類を提出すれば、あとは審査を経て、指定した口座に毎月手当が振り込まれます。
これらの公的支援制度は、出産や子育てで発生する経済的な負担を軽減することができます。それぞれの条件や手続き方法をしっかり確認しておくと、出産後にばたばたすることもないですし、損することも避けられます。
妊娠・出産のお金トラブルを減らして、幸せな子育て生活を目指そう
妊娠・出産・育児には多額の費用がかかります。夫婦は計画的に費用の見積もりと分担方法を決めることが大切です。無駄な出費を見直し、出産育児一時金などの公的支援制度を上手く活用することで経済的負担を軽減できます。分担方法については収入状況にかかわらず、お互いの考えを尊重し合いながら、オープンにコミュニケーションを取ることが何より大切です。様々な準備と工夫をこらすことで、素晴らしい家族生活が送れるはずです。